一般社団法人 日本卵子学会

生殖細胞を扱う魅力

『胚培養士の魅力とは』

みなとみらい夢クリニック 家田祥子

 世界初の体外受精児が誕生して40年以上、エドワーズ博士がノーベル生理学医学賞を受賞してから約25年、日本で不妊治療の保険適用が始まってから4年が経ち、世界では胚培養士が飛躍しているが、日本でも不妊治療は公的な治療と認められるようになり胚培養士も少しずつ評価されるようになってきた。胚培養士は生殖補助医療技術を担う必要不可欠な職業である。「赤ちゃんをつくる」と言うとスケールが大きく聞こえるが、胚培養士の仕事はそれだけ素晴らしい仕事であると私は思う。胚培養士のルーティンはどの施設でもあまり変わらない。朝は胚の発育観察、採卵、精液の精製、胚の凍結や融解など、楽しいランチタイム後から体外受精や顕微授精、胚移植などが行われる。生殖補助医療技術の発展は日進月歩で、顕微授精においても手法は様々ありIMSIやピエゾICSI、PICSIなどが行われている。胚の観察方法も顕微鏡下によるものからタイムラプス型インキュベーターによる観察に変化し、今ではAIが妊娠に繋がる胚の選択に関与している。また、PGTにおけるバイオプシーや卵子活性、ZP除去など特殊な技術も胚培養士の重要なルーティンとなっている。胚培養士はあらゆる技術を習得しているが、学会発表や論文書きのための勉強も忘れていない。大学等と共同研究を行っている施設も少なくない。私の施設でも大学や企業とコラボし受精率や胚発生能向上の培養系の改良を行っている。私が胚培養士になったばかりの頃は技術習得の練習に明け暮れていたが、技術が身につくと成績向上のための問題点や改善点を見つけることができるようになった。新しい培養液や培養機器に興味を持ち、個人の成績だけではなく培養室全体の成績アップに繋がる工夫をおこなうようになった。
 胚培養士は陽の当たらないクリンルームでマイクロの世界と向き合っている地味な職業かもしれない。患者様と顔を合わせることはほとんどなく、患者様が医師や看護師に「ありがとうございます」とお礼を言われていても、培養室にはなかなか聞こえてこない。でも出産報告を見ると、心の中でこっそり万歳をしている。これが胚培養士である。受精卵の発生は我が子の成長のように思え、妊娠したら大喜びし残念な結果になれば涙する。いつでも卵子、精子、胚と真摯に向き合っている。これも胚培養士である。
 不妊治療を受けている患者様でさえも、胚培養士の存在を知らない方もいる。まだまだ知名度が低いが、不妊治療の発展には胚培養士の力が必要でありキーパーソンであることをもっと広めていきたい。胚培養士の地位確立は最重要課題であると思う。ヒトの命を創る胚培養士は未だ公的な資格となってはいない。患者様にとっても、胚培養士にとっても、資格の見直しは今の胚培養士にとってもこれから胚培養士になる方にとっても必要である。胚培養士の魅力とは、自分の技術で赤ちゃんを生ませることができること。受精卵の神秘を見守ることができること。そして、自ら技術や培養環境(システム)の改革を行い患者様の妊娠の手助けができること。将来胚培養士になりたい!と思ってくれる学生がもっと増えてくれるために、今までの以上に胚培養士の魅力を発信していきたい。

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